男性の離婚 その4 財産分与(part3)
こんばんは。ho-rituiroiroです。
前回は、財産分与では、基本的に、別居時点で保有している一切の財産がその対象となること、分与対象財産として忘れがちな保険と退職金について書きました。
今日はその残りとして、分与対象財産のうち不動産のこと、特有財産のこと、最終的な分け方のことを書きたいと思います。
まず、不動産についてです。
分与対象財産に不動産が含まれる場合、大体、お互いが、それぞれ自分に有利な査定をとってもらい、これを資料として提出します。
part1で書いたように、旦那さんにとっては、バランスシートの左側を小さくしたいわけですから、なるべく低い価格を、反対に奥さんは、高い価格の査定を取得します。
「そんな都合よく査定してくれるのか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、親切な不動産屋さんに行けば、査定自体は大体タダでやってくれますし、「なるべく安く査定して!」とお願いすれば、大体希望通りに査定してくれます。
さて、このようにしてお互いが全然違う査定を取ってきた場合、「どこで折り合いをつけましょうか?」という問題に直面します。
1つには、「間を取る」という考え方があります。
ただ、「間を取る」考え方は、どちらかが極端な査定を取ってきた場合、不合理なことになります。
たとえば、客観的な価値が1500万円の土地があって、旦那さんはちょっと遠慮がちに1400万円、奥さんはだいぶ極端に2000万円の査定を取得したとします。
このとき、間を取ると1700万円の土地と評価されますが、これは客観的な価値との差が大きい上に、客観的価値に近い合理的な査定を取得した方が不利になるという不合理な結果になってしまいます。
また、事前に「客観的な価値」は分からないので(だからこそ査定を取得します)、お互いが「自分の査定が正しい!」と主張して自分が取得した査定額にこだわると、収拾がつかなくなります。
そこで、私としては、固定資産税評価額や路線価など、公的な資料をもって算出することが、信頼性という点、当事者に争いが生じにくく早期解決につながるという点で、合理的ではないかと考えています。
固定資産税評価額は相場の7割掛け、路線価は相場の8割掛けといわれていますから、これで割り戻せば、大体相場に近い価格になります。
また、固定資産税評価額は必ず手元に資料がありますし、路線価もホームページで調べられるので、資料の収集という点からしても簡便です。
次に、特有財産の問題です。
特有財産とは、「別居時点で保有している財産だけど、財産分与の対象とならない財産」のことをいいます。
財産分与は夫婦が築いた財産の清算です。
したがって、夫婦で築いた財産といえないものは、別居時点で保有していたとしても財産分与の対象とならない財産、すなわち特有財産となります。
具体的には、親族から相続した財産、夫婦以外の第三者から贈与を受けた財産、婚前からの資産などがこれにあたります。
ここで注意が必要なのは、特有財産の「立証責任」は、特有財産であると主張する側にあるということです。
「立証責任」という言葉がでてきましたが、これは法律用語で、「どっちかよく分からないときは、立証責任を負う側に不利な認定をする」というルールです。
たとえば、刑事裁判では被告人に無罪が推定されるので、検察官が犯罪の立証責任を負っています。
そのため、被告人が犯罪をしたかどうかよく分からないということになれば、検察官が立証責任を負っているので、検察官に不利に、つまり被告人は無罪と認定されることになります。
大切なのは、被告人は自分が無罪であることを積極的に立証する必要がなく、「よく分からない」という状態に持ち込めばOK、ということです。
前置きが長くなりましたが、上で書いたように、特有財産については、それを主張する側に立証責任があります。
したがって、「ある財産が特有財産かどうかよく分からない」となれば、夫婦共有座財産となって、分与対象財産に取り込まれます。
このことが特によく現れるのが、婚前の預貯金です。
婚前の預貯金については、「別居時の残高から婚前の預貯金額をそのまま引いて、余った額が分与対象財産だ」と勘違いしている方が多数おられます。
たとえば、別居時の残高が600万円、婚前の預貯金が200万円であれば、分与対象財産は400万円だ(600万円-200万円)という考え方です。
しかし、これは正しくない場合が多いです。
なぜなら、たとえ婚前の預貯金が200万円あったとしても、婚姻生活で生活費等の出費が当然ありますから、婚前の資産はすべて生活費等として費消され、別居時点では婚前の資産が0円になったという可能性が論理的に否定できません。
具体的にいうと、婚前の預貯金が、夫婦生活で使用する預貯金と一緒になって管理されてしまった場合には、このような可能性が否定できないので、特有財産と認められない可能性が極めて高いといえます。
逆に、婚前の預貯金を、夫婦生活で使用する預貯金とは別に管理し、そのまま置いていた場合には、その預貯金は特有財産になります。
ただ、そうやって預貯金をそのまま置いておくことはまずないので、婚前の預貯金が特有財産になるケースが現実的には考えにくいのです。
また、特有財産でよく問題となるのは、親が不動産の頭金を出したといった場合です。
この場合、その頭金は親(夫婦以外の第三者)からの贈与なので、頭金を出した親側の当事者の特有財産です。
さて、頭金の場合も、「頭金をそのまま現在価値から引く」という考え方はしません。
どうやって考えるかというと、割合で考えます。
たとえば、
・5000万円の不動産を購入
・1000万円を旦那さんの両親が頭金として負担
・残りの4000万円についてローンを組んだ
・今、不動産を売れば3000万円で売れる
・ローンの残りが1000万円
という条件で考えてみます。
まず、特有財産割合を計算します。
5000万円のうち1000万円が特有財産、残り4000万円が共有財産ですから、特有:共有=1:4です。
次に、不動産の現在価値(正味の価値)を計算します。
これは、今売った価格3000万円-残ローン1000万円=2000万円です。
最後に、現在価値に対する特有財産の額を求めます。
これは、特有:共有=1:4=400万円:1600万円と求めることができます。
したがって、特有財産は400万円と計算され、当初負担した頭金1000万円でないことが分かります。
以上が特有財産の考え方で、とてもややこしいです。
この主張が出てきたときも、まぁ、話し合いでの解決が難しいです。
最後に、簡単に、分け方について書きます。
分け方自体は、分与対象財産が確定し、分与対象財産全体の額が分かれば、楽です。
すなわち、まず、分与対象財産全体の額を2分の1します。
次に、お互い取得したい財産を取ります。
最後に、2分の1した額より多く財産を取得する側が、不足する側に不足分を支払います。
たとえば、次のような場合について考えてみます。
・不動産 4000万円
・預金 1000万円
・残ローン 2000万円
この場合、分与対象財産全体の額は3000万円です(不動産4000+預金1000-残ローン2000)。
したがって、2分の1は1500万円です。
旦那さんが不動産とローンを、奥さんが預金を取得する場合、旦那さんが2000万円の財産を(不動産4000万円-残ローン2000万円)、奥さんが1000万円の財産を取得するので、旦那さんが奥さんに不足分の500万円を追加で支払う必要があります。
注意点として、分与対象財産全体の額がマイナスになる場合、財産分与は0円で、ローンを分割するといった話にはなりません。
たとえば、3000万円の価値がある不動産があるけど、残ローンが4000万円あって、預貯金は500万円しかないと、全体の額はマイナス500万円になります。
このとき、財産分与は0円で、ローンを250万円ずつ分割する、ということにはなりません。
なぜならないかというと、単純にお金を貸している銀行が困るからです。
また、不動産に特有財産が含まれる場合、次のようになります。
たとえば、上の例で、不動産に奥さんの特有財産400万円が含まれるとします。
そうすると、分与対象財産全体の額は2600万円となります(不動産4000万円+預金1000万円−残ローン2000万円−特有財産400万円)。
したがって、その2分の1は1300万円です。
旦那さんが不動産を取得して、奥さんが預金を取得すると、旦那さんは分与対象財産のうち1600万円の財産を(不動産4000万円−残ローン2000万円−特有財産400万円)、奥さんは1000万円の財産を取得します。
そこでまず、分与対象財産の過不足を清算するため、旦那さんは奥さんに不足分300万円を支払う必要があります。
また、不動産には奥さんの特有財産400万円が含まれており、これは奥さんに返さないといけないので、旦那さんは奥さんに追加で400万円を支払う必要があります。
こうすることで、最終的に奥さんは、分与対象財産の半分である1300万円+特有財産400万円の合計1700万円を取得することになるというわけです。
以上、だいぶ長くなりましたが、ここで財産分与については、一応終わりにしようと思います。
これまで読んでいただいた方には分かると思いますが、財産分与は本当に大変です。
きちんとやろうと思うと、本当にたくさんの問題があり、すべての問題を解決することは至難の業です。
ですから、話し合いでは、どこかで妥協することが必ず必要です。
というより、妥協点を見出すために話し合いをする、という方が正しいといえます。
確かに財産が多い方だと、妥協して、数百万単位の「損」になるかもしれません。
しかし、大切な時間と労力を考えた場合、それから早期に離婚の話し合いを終わらせて新しい人生を歩むメリットを考えた場合、それが果たして「損」であるかどうか、一度、冷静になって考えてみる価値があると思います。
それでは、財産分与は大変だ!ということが分かったところで、次回は、慰謝料について書きたいと思っています。