男性の離婚 その4 財産分与(part3)
こんばんは。ho-rituiroiroです。
前回は、財産分与では、基本的に、別居時点で保有している一切の財産がその対象となること、分与対象財産として忘れがちな保険と退職金について書きました。
今日はその残りとして、分与対象財産のうち不動産のこと、特有財産のこと、最終的な分け方のことを書きたいと思います。
まず、不動産についてです。
分与対象財産に不動産が含まれる場合、大体、お互いが、それぞれ自分に有利な査定をとってもらい、これを資料として提出します。
part1で書いたように、旦那さんにとっては、バランスシートの左側を小さくしたいわけですから、なるべく低い価格を、反対に奥さんは、高い価格の査定を取得します。
「そんな都合よく査定してくれるのか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、親切な不動産屋さんに行けば、査定自体は大体タダでやってくれますし、「なるべく安く査定して!」とお願いすれば、大体希望通りに査定してくれます。
さて、このようにしてお互いが全然違う査定を取ってきた場合、「どこで折り合いをつけましょうか?」という問題に直面します。
1つには、「間を取る」という考え方があります。
ただ、「間を取る」考え方は、どちらかが極端な査定を取ってきた場合、不合理なことになります。
たとえば、客観的な価値が1500万円の土地があって、旦那さんはちょっと遠慮がちに1400万円、奥さんはだいぶ極端に2000万円の査定を取得したとします。
このとき、間を取ると1700万円の土地と評価されますが、これは客観的な価値との差が大きい上に、客観的価値に近い合理的な査定を取得した方が不利になるという不合理な結果になってしまいます。
また、事前に「客観的な価値」は分からないので(だからこそ査定を取得します)、お互いが「自分の査定が正しい!」と主張して自分が取得した査定額にこだわると、収拾がつかなくなります。
そこで、私としては、固定資産税評価額や路線価など、公的な資料をもって算出することが、信頼性という点、当事者に争いが生じにくく早期解決につながるという点で、合理的ではないかと考えています。
固定資産税評価額は相場の7割掛け、路線価は相場の8割掛けといわれていますから、これで割り戻せば、大体相場に近い価格になります。
また、固定資産税評価額は必ず手元に資料がありますし、路線価もホームページで調べられるので、資料の収集という点からしても簡便です。
次に、特有財産の問題です。
特有財産とは、「別居時点で保有している財産だけど、財産分与の対象とならない財産」のことをいいます。
財産分与は夫婦が築いた財産の清算です。
したがって、夫婦で築いた財産といえないものは、別居時点で保有していたとしても財産分与の対象とならない財産、すなわち特有財産となります。
具体的には、親族から相続した財産、夫婦以外の第三者から贈与を受けた財産、婚前からの資産などがこれにあたります。
ここで注意が必要なのは、特有財産の「立証責任」は、特有財産であると主張する側にあるということです。
「立証責任」という言葉がでてきましたが、これは法律用語で、「どっちかよく分からないときは、立証責任を負う側に不利な認定をする」というルールです。
たとえば、刑事裁判では被告人に無罪が推定されるので、検察官が犯罪の立証責任を負っています。
そのため、被告人が犯罪をしたかどうかよく分からないということになれば、検察官が立証責任を負っているので、検察官に不利に、つまり被告人は無罪と認定されることになります。
大切なのは、被告人は自分が無罪であることを積極的に立証する必要がなく、「よく分からない」という状態に持ち込めばOK、ということです。
前置きが長くなりましたが、上で書いたように、特有財産については、それを主張する側に立証責任があります。
したがって、「ある財産が特有財産かどうかよく分からない」となれば、夫婦共有座財産となって、分与対象財産に取り込まれます。
このことが特によく現れるのが、婚前の預貯金です。
婚前の預貯金については、「別居時の残高から婚前の預貯金額をそのまま引いて、余った額が分与対象財産だ」と勘違いしている方が多数おられます。
たとえば、別居時の残高が600万円、婚前の預貯金が200万円であれば、分与対象財産は400万円だ(600万円-200万円)という考え方です。
しかし、これは正しくない場合が多いです。
なぜなら、たとえ婚前の預貯金が200万円あったとしても、婚姻生活で生活費等の出費が当然ありますから、婚前の資産はすべて生活費等として費消され、別居時点では婚前の資産が0円になったという可能性が論理的に否定できません。
具体的にいうと、婚前の預貯金が、夫婦生活で使用する預貯金と一緒になって管理されてしまった場合には、このような可能性が否定できないので、特有財産と認められない可能性が極めて高いといえます。
逆に、婚前の預貯金を、夫婦生活で使用する預貯金とは別に管理し、そのまま置いていた場合には、その預貯金は特有財産になります。
ただ、そうやって預貯金をそのまま置いておくことはまずないので、婚前の預貯金が特有財産になるケースが現実的には考えにくいのです。
また、特有財産でよく問題となるのは、親が不動産の頭金を出したといった場合です。
この場合、その頭金は親(夫婦以外の第三者)からの贈与なので、頭金を出した親側の当事者の特有財産です。
さて、頭金の場合も、「頭金をそのまま現在価値から引く」という考え方はしません。
どうやって考えるかというと、割合で考えます。
たとえば、
・5000万円の不動産を購入
・1000万円を旦那さんの両親が頭金として負担
・残りの4000万円についてローンを組んだ
・今、不動産を売れば3000万円で売れる
・ローンの残りが1000万円
という条件で考えてみます。
まず、特有財産割合を計算します。
5000万円のうち1000万円が特有財産、残り4000万円が共有財産ですから、特有:共有=1:4です。
次に、不動産の現在価値(正味の価値)を計算します。
これは、今売った価格3000万円-残ローン1000万円=2000万円です。
最後に、現在価値に対する特有財産の額を求めます。
これは、特有:共有=1:4=400万円:1600万円と求めることができます。
したがって、特有財産は400万円と計算され、当初負担した頭金1000万円でないことが分かります。
以上が特有財産の考え方で、とてもややこしいです。
この主張が出てきたときも、まぁ、話し合いでの解決が難しいです。
最後に、簡単に、分け方について書きます。
分け方自体は、分与対象財産が確定し、分与対象財産全体の額が分かれば、楽です。
すなわち、まず、分与対象財産全体の額を2分の1します。
次に、お互い取得したい財産を取ります。
最後に、2分の1した額より多く財産を取得する側が、不足する側に不足分を支払います。
たとえば、次のような場合について考えてみます。
・不動産 4000万円
・預金 1000万円
・残ローン 2000万円
この場合、分与対象財産全体の額は3000万円です(不動産4000+預金1000-残ローン2000)。
したがって、2分の1は1500万円です。
旦那さんが不動産とローンを、奥さんが預金を取得する場合、旦那さんが2000万円の財産を(不動産4000万円-残ローン2000万円)、奥さんが1000万円の財産を取得するので、旦那さんが奥さんに不足分の500万円を追加で支払う必要があります。
注意点として、分与対象財産全体の額がマイナスになる場合、財産分与は0円で、ローンを分割するといった話にはなりません。
たとえば、3000万円の価値がある不動産があるけど、残ローンが4000万円あって、預貯金は500万円しかないと、全体の額はマイナス500万円になります。
このとき、財産分与は0円で、ローンを250万円ずつ分割する、ということにはなりません。
なぜならないかというと、単純にお金を貸している銀行が困るからです。
また、不動産に特有財産が含まれる場合、次のようになります。
たとえば、上の例で、不動産に奥さんの特有財産400万円が含まれるとします。
そうすると、分与対象財産全体の額は2600万円となります(不動産4000万円+預金1000万円−残ローン2000万円−特有財産400万円)。
したがって、その2分の1は1300万円です。
旦那さんが不動産を取得して、奥さんが預金を取得すると、旦那さんは分与対象財産のうち1600万円の財産を(不動産4000万円−残ローン2000万円−特有財産400万円)、奥さんは1000万円の財産を取得します。
そこでまず、分与対象財産の過不足を清算するため、旦那さんは奥さんに不足分300万円を支払う必要があります。
また、不動産には奥さんの特有財産400万円が含まれており、これは奥さんに返さないといけないので、旦那さんは奥さんに追加で400万円を支払う必要があります。
こうすることで、最終的に奥さんは、分与対象財産の半分である1300万円+特有財産400万円の合計1700万円を取得することになるというわけです。
以上、だいぶ長くなりましたが、ここで財産分与については、一応終わりにしようと思います。
これまで読んでいただいた方には分かると思いますが、財産分与は本当に大変です。
きちんとやろうと思うと、本当にたくさんの問題があり、すべての問題を解決することは至難の業です。
ですから、話し合いでは、どこかで妥協することが必ず必要です。
というより、妥協点を見出すために話し合いをする、という方が正しいといえます。
確かに財産が多い方だと、妥協して、数百万単位の「損」になるかもしれません。
しかし、大切な時間と労力を考えた場合、それから早期に離婚の話し合いを終わらせて新しい人生を歩むメリットを考えた場合、それが果たして「損」であるかどうか、一度、冷静になって考えてみる価値があると思います。
それでは、財産分与は大変だ!ということが分かったところで、次回は、慰謝料について書きたいと思っています。
男性の離婚 その4 財産分与(part2)
こんばんは。ho-rituiroiroです。
昨日は、財産分与の導入的なことを書きました。
今日からは、財産分与の対象財産や、その評価、それから特有財産について書きたいと思います。
なお、今日から書くことは、個人的な見解であることもあって、必ずしも一般的でなかったり、個別具体の事例では違った考え方をしたりすることがあるので、その点はご容赦ください。
さて、早速ですが、財産分与の本質は、「清算」です。
「清算」というと、日常的な意味は多義的ですが、法的には、「ある一時点で切り取った財産を、バラバラにして個別に換価する」という意味を持ちます。
この点、破産は、財産分与に近いイメージです。
破産手続では、債務者が破産手続開始時点で保有する一切の財産を、一旦バラバラに解体して、金銭に換価して、債権者に分配します。
財産分与においても、夫婦が別居時点で保有する一切の財産を、一旦バラバラに解体して、金銭的に評価し、夫婦に分配するのです。
このことから、財産分与では、①別居時点で有する、②金銭に評価できる一切の財産が分与の対象となる、ということができます。
分与対象財産として見落とされやすい財産としては、保険、退職金があります。
まず保険のうち、解約返戻金のある保険は、別居時点で解約したものと仮定して、分与対象財産に組み込まれます。
たとえば、別居時点で解約返戻金が100万円あれば、「実際に解約するかどうかにかかわらず」、その保険を100万円と評価して、プラスの財産に組み込みます。
次に退職金は、「給与の後払いの性格がある」などという理由で、理屈上、財産分与の対象財産となります。
つまり、日々支払われる給与が財産分与の対象となる以上、これを後払いしているにすぎない退職金も当然、財産分与の対象財産となるはずだ、という理屈です。
ただ、理屈はそうでも、かなり先の退職金については、実際にもらえるかどうかわかりません。
そのため、「退職金をもらえる蓋然性がある(確率がとても高い)」場合に、退職金が財産分与の対象財産となる、と一般に理解されています。
この点、実際に退職金が財産分与の対象になるかどうかについて、私の感覚は、①就業規則等に退職金に関する定めがあり、②勤務先会社で退職金が支払われている実績があって、③5年以内に退職する見込みで、④業績不振など退職金の支給を阻害する要因がない場合には、100%に近い確率で退職金が財産分与の対象となり、それ以外の場合には、ケースバイケースという感じです。
たとえば、退職が10年先となれば(上記③を欠くケース)、退職金をもらえる可能性は低くなるでしょうし、逆に、就業規則等に退職金に関する定めがなくても、実際に退職金が支払われている実績があれば(上記①を欠くけど、②は満たすケース)、それは退職金をもらえる確率には影響しないだろうとか、そういった感覚です。
退職金が財産分与対象財産になるとした場合、退職金をどう見積もるかという点が次に問題となります。
ここで、「将来支給される退職金を基準」とする場合、理論的には、
①婚姻期間に応じた割合で計算する
②期待値をかける
③現在価値に割り戻す
というのが正しいと考えられます。
このうち、①は一般的な考え方です。
たとえば、婚姻するまでの勤務期間が10年、婚姻期間が20年、別居後退職金が支給されるまでが10年とすると、婚姻期間の勤務期間全体に対する割合は20/40ですから、将来支給される退職金の2分の1を分与対象財産と一応、算定します。
その上で②は、上の例でいうと、退職金が支給されるまで10年と長いですから、100%に近い確率でもらえるとは思えません。
そこで、たとえば80%くらいの確率でもらえると仮定して、これを掛け合わせることが、理屈にかなっているということです。
さらに③は、たとえば今1000万円もらうのと、将来1000万円もらうのとでは、その価値が違います。
なぜなら、今1000万円もらえれば、貯金するだけでも僅かながら利息などがついて、将来1000万円よりも高くなるからです。
つまり、将来の退職金については、割り引いて考えることが必要です。
ただ、現在価値の計算は、利息を幾らにするかという難しい問題があります。
以上のことから、退職金については、「将来支給される退職金を基準」とすると、厳密に考えた場合、とても難しい問題に立ち入ることになります。
そこで、私としては、穏当な方法として、「別居時点で退職した場合に支給される退職金を基準」とし、退職金をもらえる可能性の程度を考慮して微調整することが、現実的だろうと考えています。
以上、財産分与の対象財産の基本的な考え方と、財産分与の対象となる財産として見落とされがちな財産について書きました。
少し長くなりましたので、残りはpart3に残したいと思います。
part3に続く
男性の離婚 その4 財産分与(part1)
こんばんは。ho-rituiroiroです。
これまで、離婚に関するいろいろを書いてきました。
今日からは、財産分与について書いていこうと思います。
先に今日書きたいことを簡単にいうと、財産分与の基本的な考え方から、財産分与は争いが生じやすく、争いが生じた場合には、話し合いでの解決が困難です、ということを書くつもりです。
さて、早速ですが、財産分与というと、簡単に、「共有財産を2分の1するだけでしょ。簡単じゃないか。」と思われがちです。
しかし、まず、「何を」2分の1をするかという点が問題になります(分与対象財産の確定の問題)。
次に、分与対象財産が明らかとなった後、それを「どのように」金額に見積もるかという点が問題となります(分与対象財産の評価の問題)。
つまり、「2分の1する」のは最後の作業で、その前提作業が大変なのです。
このブログの「心構え(part1)」では、夫婦の財産が預金くらいしかない夫婦は簡単だと書きました。
これは、対象財産の確定(預金)と評価(残高)が通帳を見れば一発で分かるからです。
これに対して、不動産や退職金が問題となる場合、争いが生じやすくなります。
たとえば、退職金については、そもそも対象財産に含まれるかといった点や、現在価値をどう見積もるかといった点が問題になりえます。
また、不動産については、その評価が問題となります。
そして、これらの問題点について、双方が自分に有利なことを主張するので、争いが生じやすいのです。
このように、財産分与では、①何を対象にするのかという問題と、②対象となる財産をどのように評価するかという問題があって、③実はこれらの点で揉めるんだ、ということがいえます。
以上を踏まえた上で、財産分与の基本的な考え方ですが、簡単にいうと、「プラスの財産からマイナスの財産を差し引いて、残ったものを2分の1する」というものです。
この点は、会社に勤めている方では、会社のバランスシートをイメージするとわかりやすいかもしれません。
つまり、まず、左側(資産)にプラスの財産、自宅などの固定資産や、預金、保険、株などの流動資産を書きます。
次に、右側の上(負債)に住宅ローンなどのマイナスの財産を書きます。
そして、右側の下に余った部分(純資産)があれば、そこを2分の1する、というイメージです。
右側の下に余った部分がなく、むしろ右側が左側より下にはみ出てしまうという場合は、財産分与はゼロです。
以上のことから、財産分与において、男性側にとっては、渡す財産を少なくするため、いかに左側を小さくするかということが問題になり、反対に女性側にとっては、もらう財産を多くするため、いかに左側を大きくすることが問題になる、ということがいえます。
左側を小さくする方法としてまず考えられるのは、財産の評価を低く見積もることです。
たとえば、自宅がある場合には、自宅の評価を低く査定してもらうといったことが考えられます。
他方、女性側では、自宅を高く査定してもらうでしょう。
また、そもそもある財産を対象財産に含めない、ということが考えられます。
いわゆる特有財産の主張です。
他方、女性側では、なんとしてでも特有財産の主張を許したくありませんので、それは夫婦共有財産だと主張するでしょう。
このように、財産分与では、男性側と女性側双方が、それぞれ自分に有利になるよう、全く正反対の主張をするようになるため、極めて争いが生じやすいのです。
この点、「婚姻費用・養育費算定表」のように、当事者間で共有できる画一的な基準があれば便利です。
しかし、残念ながら、財産分与では、個別具体的な財産の内容や、財産が形成された経緯等によって様々な判断がありうるため、画一的な基準といったものがありません。
そのため、お互いが折り合いをつける地点が見つからず、紛争が長期化し、ともすると話し合いでの解決ができない状況に陥るケースが少なくないところです。
たとえば、自宅などの不動産なんかは、どう評価するかによって、渡す(もらえる)金額が数百万単位で変わったりするので、どうしても「間をとって丸く収める」的な考え方では収まりきらないところがあるわけです。
以上、簡単に述べたところからわかるように、「財産分与をちゃんとやろう!」と思うと、とても大変です。
というより、「財産分与をちゃんとやる」ことは、調停では不可能だと思った方が良いです。
したがって、財産分与にこだわるなら、①調停をとっとと諦めて、訴訟をする、②ある程度妥協する、③離婚だけ成立させた上で、別途、財産分与調停を申し立てるといった手段をとることが得策です。
つまり、調停でいつまでもダラダラと話し合いを続けていても、上記①から③のうちどれかを決断しなければ、解決に向かわない(ことが多い)ということです。
ただ、現実的な問題として、③は婚姻費用をもらえなくなる女性が応じません。
また、①は時間も労力も、調停の倍かかります。
したがって、②で落ち着くことが無難だったりして、男性側にとっては「損したなー」という気分になるところです。
ま、「そういうものだ」と諦めるしかありません。
もし嫌なら、時間と労力を使って訴訟を戦うしかありません。
以上を十分に理解した上で、今日は終わりにしたいと思います。
次回以降は、対象財産だったり、特有財産だったりということについて詳しく書いていこうと思います。
part2に続く
男性の離婚 その3 婚姻費用(part2)
こんにちは。ho-rituiroiroです。
前回のpart1では、ざっくり、「婚姻費用を算定表より減らすことは無理なので、諦めましょう」といったことを書きました。
もっとも、算定表よりも低い金額が認められるケースがないわけではありません。
結論からいえば、①相手方の生活費の一部を負担し続けている場合、②こちら側でこどもを養育している場合の2つのケースでは、理論上、婚姻費用を算定表よりも減額できます。
まず、婚姻費用は、次の計算式によって求められています。
1)当事者の「基礎収入」を合計…夫(X)+妻(Y)
2)妻側の生活費割合を計算…妻側の「生活指数」/全体の「生活指数」
3)妻側に割り振られるべき生活費の額を計算…上記1)×上記2
4)不足する生活費(婚姻費用)を計算…上記3)-妻の基礎収入(Y)
ここで、「基礎収入」とは、ざっくり、税引前の収入から税金や経費(職業費や住居費)を引いた残りです。言い換えると、「生活費(食費や学費)に使えるお金」です。
また、「生活指数」とは、大人1人の生活費を100とした場合に、そこから1人増えることによって増加する生活費を指数化したものです。
算定表では、大人は100、子どもは年齢に応じて、14歳以下は55、15歳以上は90とされています。
このように、算定表は、標準的な住居費や生活費を、基礎収入の認定や生活指数の認定にあたって考慮しています。
したがって、たとえば、別居にあたって、奥さん側がそのまま従前の住居に住み続け、夫がローンや光熱費の支払を継続している場合、奥さん側は基礎収入の認定にあたって考慮されているはずの住居費の支払や、生活費として考慮されているはずの光熱費の支払を免れているわけですから、理論上、奥さんの基礎収入を高く認定したり、生活指数を少なく認定することが必要で、その結果、計算上、支払わなければいけない婚姻費用の額は、算定表よりも少なくなります。
このように、奥さん側の生活費の一部を負担し続けている場合、算定表よりも低い金額で婚姻費用が認定されると考えられます(冒頭のケース①)。
また、算定表は、奥さん側で子どもを養育していることを前提にしています。
したがって、子どもを旦那さんが養育している場合には、当然、算定表よりも婚姻費用の額は低くなります(冒頭のケース②)。
たとえば、14歳以下の子どもが2人いる場合、算定表では、記計算式の2)の部分で、妻側の生活指数/全体の生活指数=100+55+55/100+100+55+55(≒0.67)で計算されていますが、2人とも旦那さんが養育している場合には、100/100+100+55+55(≒0.32)となるはずで、妻側の生活費の割合が大きく減少しますから、当然、支払わなければならない婚姻費用の額は低くなります。
以上のように、①相手方の生活費の一部を負担し続けている場合、②こちら側でこどもを養育している場合の2つのケースでは、理論上、婚姻費用を算定表よりも減額できます。
ただ、言い換えると、算定表よりも低い金額が認定されるケースは、この2つくらいしか考えられません。
たとえば、自分が住み続けている住宅のローンの支払が大きすぎるために算定表どおりの婚姻費用を支払えないといった主張がよくされますが、「相当な住居費はすでに算定表で考慮されており、それを超える住居費の支払は「資産形成」であって、扶養義務に優先しない」といった冷たい理由で一蹴されてしまいます。
また、妻は実家に帰っており実家の援助を得て生活しているから生活費がかかっていないといった主張も、「第1次的な扶養義務者である夫が本来負担すべき生活費を、第1次的な扶養義務者でない妻の実家が立て替えているにすぎない」といった理由で一蹴されてしまいます。
このように認められる可能性がない主張をしても時間が浪費されるだけですし、裁判所からも冷たい目で見られ、精神衛生上もよくないので、やめておいた方が良いといえます。
以上で、婚姻費用に関する説明を終えたいと思います。
前回のpart1と総合してまとめると、婚姻費用の争いでは、①基本的に、算定表どおりに決まるので、争うのは得策でないこと、②争える場合は限られているので、争える場合かどうかきちんと見極めて争うことが必要であること、といったことがいえるかと思います。
次回以降は、財産分与について書いていくつもりです。
男性の離婚 その3 婚姻費用(part1)
こんにちは。ho-rituiroiroです。
今日から、離婚条件の詳しい内容について書いていこうと思います。
まずは、婚姻費用についてです。
巷では「コンピ」と略称されることが多い婚姻費用ですが、簡単にいえば、離婚が決まるまでの生活費のことをいいます。
旦那さんがサラリーマンで、奥さんが専業主婦、子どもが1人いて、家計は奥さんが全部管理しているというような家庭を考えましょう。
この家庭では、旦那さんが稼いだ給料は、奥さんが管理する旦那さん名義の口座に入金されます。旦那さんは、奥さんから月々幾らかのお小遣いをもらうだけで、家計がどうなっているかよく知りません。
あるとき、奥さんが、離婚することを前提に、子どもを連れて実家に帰ってしまいました。旦那さんの預金通帳などは置きっぱなしでした。
このとき旦那さんは「よっしゃ!自由にお金を遣えるぞ!」と思うかもしれませんが、そう甘くないのが現実です。
奥さんは、旦那さんに対して、「離婚が決まるまで、同居中に私や子どもに使われていたのと同じくらいの生活費を支払ってください」と言うことができます。
これが、婚姻費用の請求です。
なぜ婚姻費用を支払わないといけないかというと、法律上の夫婦である以上は、奥さんとお子さんを養わないといけないと法律で決められているからです。これを扶養義務といいます。
そして、婚姻費用は、「奥さんが出ていった理由が何であれ」、「奥さんが実家で養ってもらっているといった事情があったとしても」払わないといけないものです。
つまり、婚姻費用の支払義務をなくすことは、基本的にできません。
この点、「婚姻費用の請求が信義誠実の原則に反するときは請求が認められない」という結論だけをホームページで見つけて主張しようとする方がいますが、ハッキリ申し上げて、時間の浪費以外の何物でもありません。
信義誠実違反を理由にある請求を認めないことは、法律上認められている権利行使をできなくするものですから、「よっぽどの事情」が必要です。
当事者にとっては「妻が勝手に出ていった!」、「妻は実家で悠々と暮らしているのに!」といった事情は「よっぽどひどい事情」なのかもしれませんが、世の中からみれば、「ありふれた事情」にすぎません。
したがって、こうした事情を主張しても、時間の浪費ですし、滑稽ですらあります。
婚姻費用が幾らになるか?ということは、夫婦の収入、子どもの数と年齢で決まり、裁判所が作成した「婚姻費用・養育費算定表」によって具体的な額が決められることが一般です。
また、検索エンジンで「婚姻費用 計算」と検索すると、夫婦の収入と、子どもの年齢を入れればすぐに計算できるサイトが出てきますので、おすすめです。
以上、婚姻費用に関する導入的なことを書きました。
このサイトでは「諦め」を強調していますが、婚姻費用はまさに「諦め」が肝心です。
色々なことを主張してみても、結局は、算定表の範囲内で金額が決まります。
婚姻費用は離婚するまでの「入口」ですから、ここで時間を浪費することは無駄です。
婚姻費用の請求がされた場合には、「算定表の範囲内ならいいよ。そんなことよりさっさと先に進もうぜ」とスマートに振る舞うことが勧められます。
そんなところで、次回は、婚姻費用のより具体的な算定方法と、減額を求めることができるケースについて書いていくつもりです。
part2に続く。
男性の離婚 その2 離婚条件
こんばんは。ho-rituiroiroです。
今日は、離婚をするにあたって決めなければいけない条件について書きます。
早速ですが、離婚にあたって決めなければいけないことは、大きく、夫婦に関することと、子どもに関することがあります。
まず、夫婦に関することとして、
①婚姻費用
②財産分与
③慰謝料
④年金分割
があります。
次に、子どもに関することとして、
⑤監護者ないし親権者
⑥面会交流
⑦養育費
があります。
このように、離婚にあたっては、少なくとも上記①~⑦のことを決めることが必要です。
このうち、どれが中心的な問題になるかは、個々の夫婦によって様々です。全部争いになるケースもあれば、親権さえ決まれば後はどうでもいいといったケースまで、様々です。
また、離婚の取り決めは、これらに限られるわけではなく、たとえばDVが原因で離婚に至った場合には、接近禁止の条項を定めるなど、上記①~⑦以外に、いろいろなことを約束することができます。
もっとも、上記①~⑦は、離婚にあたって決めておいた方が良い(あるいは決めておいておけなければいけない)基本的な条件ですので、離婚をする場合には、上記①~⑦をきちんと決めておいたかどうか、チェックすることが大事です。
さらにいうと、きちんと取り決めを交わした場合には、合意書のような書面を作成しておくことが望ましいですし、合意書には、後々紛争が蒸し返されることを防ぐために、「清算条項」を入れておくことが必須です。
たとえば、上記①~⑦について定めた上で、「当事者(夫婦)は、当事者間の離婚に関する紛争の一切が終結したことを確認し、本合意書に定めるもののほか、当事者間に一切の債権債務がないことを相互に確認する」といった文章を入れておくことが望ましいといえます。
ただし、「清算条項」は、こちらから相手方に対する請求もできなくなるので、設ける場合には、慎重になることが必要です。
個別の項目に関する詳しい内容は、これからご紹介していくつもりです。
今日は短いですが、この辺で。
男性の離婚 その1 心構え(part2)
こんばんは。ho-rituiroiroです。
このブログでは、法律に関するいろいろーを書いています。
さて、昨日は、離婚調停・裁判にあたっての心構えの第1として、「夫婦関係をやり直すことは無理だなー」と「諦める」ことが必要であることを書きました。
今日はその続きですが、夫婦関係の修復を「諦めた」場合、その次に、これまで築き上げてきた財産の清算や、今後の養育費の支払など、過去の清算と、将来のことを考えなければいけません。
ここでも男性は「諦め」が必要です。
「またか」と絶望されたり、怒る方がいるかもしれませんが、現実をきちんと直視することが必要です。
まず、過去の清算としての財産分与について、「財産は貯金くらいしかありません」という夫婦は単純です。
基本的には、単純に、夫婦名義の財産を足して2で割って、お互いが2分の1ずつ取るように調整すればいいだけです。
ところが、一定の収入を得ていて、夫婦生活がそれなりに長く、子供がいるという夫婦の場合、大抵、そう単純にはいきません。
こういう夫婦の場合、多くが、どこかで家を買っていたり、学資保険の積立があったり、他の特殊な財形貯蓄をしていたりするからです。
なぜこういう場合に単純にいかないかというと、不動産は売ってないのに売ったと仮定して考えたり、学資保険の積立などは現にないお金をあるものとして考えたりしなければいけないからです。
たとえば、家が売ればローンとプラスマイナスでプラス100万円くらいになり、学資保険は解約すれば100万円になるけど、貯金は全くないという場合、払えるお金はないのに、財産分与では、家と保険を取得する側が200万円の半分である100万円を支払わないといけません。
また、大抵、不動産や保険は中途半端な時期に売却すると損をします。
夫婦共有財産は、いわゆるゴーイングコンサーンバリューです。
つまり、夫婦関係が続いていることで価値を有したり、将来的に価値を持つ財産です。
これを解体して、スクラップバリューで評価すると、当然、損が出ます。
そのため、第1に「離婚によって損をする」ことについて「諦め」が必要です。
そして第2に、実際に損をし、あるいは損をした気分になるのは男性であることについて「諦め」が必要です。
たとえば、不動産でローンの債務者となっているのは大体男性で、不動産を売ってプラスになればいいですが、マイナスになる場合には、売っても借金だけ負うような形になります。
だからといって、妻と子供が出て行った家のローンを支払い続け、そこに住み続けるというのは、とても辛いことです。
こういった状況に陥ることについても「諦め」が必要です。
次に、養育費の支払についても、あまり男性にとって耳よりな情報はありません。
巷では、「養育費を減額する方法!」と銘打ったものがありますが、基本的に、養育費を基準より減額することは不可能だと考えた方が正しい場合が多いです(いつかきちんと、減額できるケースとできないケースを紹介します)。
したがって、男性は、基本的に、基準に従った養育費を支払う必要があり、争っても結局、審判という形で支払を命じられます。
そのため、「養育費は基準どおり支払わないといけないんだなー」という「諦め」が必要です。
そのほか、男性が離婚にあたって「諦めないといけないこと」は沢山あります。
その1は導入ですので、詳しくは、これから順に詳しく説明させていただく予定です。
さて、導入であるその1では、男性にとって厳しい見通しばかりが書かれた上で、「諦めろ」と繰り返し書かれ、ともすると「女性の味方なのではないか!」と疑われるかもしれません。
しかし、私が厳しい見通しを伝えるのは、どこかのタイミングで見切りをつけないと、延々と時間ばかりが消費され、精神的にも疲弊し、トータルで見たときには、良くないと思うからです。
離婚紛争は、精神的にとてもしんどいことです。
大好きだったし、信頼していた相手と対立するのですから、当たり前です。
そういう精神的につらい争いは、どこかのタイミングで見切りをつけて、新しい人生に目を向ける方が、きっと良いことの方が多いはずです。
自分のやりたいようにやったけど、精神的にやられてしまったし、次の相手を見つけるには年をとりすぎてしまった、というのでは、後から振り返って後悔することの方が多いように感じます。
もちろん、人生は人それぞれですので、どうするかは自由です。
ただ、私は上に書いたような気持ちで書いてます、ということで、その1を終えたいと思います。
次からは、離婚にあったて問題となる条件(財産分与、養育費、慰謝料等)や、各条件の詳細など、より具体的なことを書いていく予定です。